ミンストレル・ショーおよび顔を黒く塗る行為とポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)の関連性について

 

>> teruyastar( id:teruyastar )

 上記の記事を読ませていただきました。それを受けて、少しそちらに向けて書きたいことがあるのですが、ブックマークやコメントでは文字数が足りないので、僭越ながら自身のブログの方にコメントを書かせて頂きます。
本題に入る前にまず、こうして一連の話の流れを大雑把にではあれまとめてくださり、またあなたなりに、自分自身の立場で率直に意見を書いてくださったことを有難く思います。その上で、自分の目から見て事実誤認と思われるものについて、少しだけ書かせてください。

 まず、顔を黒く塗る行為ミンストレル・ショーとそれに附随する黒人差別の問題は、現在論争となっている「ポリティカル・コレクトス(以下PCとします)」とは、直接的な関連性はありません。そちらでも既にミンストレル・ショーの行われていた時代について少し記しているように、顔を黒く塗るという行為は、PC論争にかかる「これは差別か否か」のような再考の中で認識されるようになったものではなく、それ以前のはるか昔に行われていたものでした。
 またももいろクローバーZの項においても、そちらでは「白人は黒人の文化を盗んでいる」といった現代の黒人の解釈、およびその解釈に基づく「“黒塗りはいけない”がある」と書いていますが、実際には、そういった現代の黒人の漠然とした共通認識や感情だけで「差別的行為である」という見方が維持されているわけではありません。
 1950年代から1960年代のアメリカで起こった公民権運動において、撤廃が目指された有色人種差別を認める各州法をまとめて“ジム・クロウ法”と言いますが*1、このジム・クロウとは、ミンストレル・ショーので用いられた曲の題名、及びその登場人物に由来するものです。*2*3。記事中のリンクが載せられたサイトにも書かれている通り、このジム・クロウのキャラクターは伝説化されている部分も多く、キャラクターそのものについては未確定なところが多いのも事実ですが、少なくとも50年代においても人種差別法の総称として用いられ、以後歴史用語として定着している点から言ってもミンストレル・ショー(とそれに付随する顔を黒く塗る行為)が人種差別にかかる一大事件と直接的に結びついたものであったことは明らかです。
 このように、多くの人が着目しているPC論争以前から欧米圏では歴史的事実として「顔を黒く塗る行為」は差別的行為であると見做されてきているのです。「政治的に正しくないように見えるからこれからはそういうことにしよう」ではないのです。PC論争が起こる半世紀前には既にミンストレル・ショーは人種差別的行為であり、同時に人種差別における象徴と見做されていたのです。この前提を踏まえていただければ、これが取ってつけた「被害妄想」ではないこと、PC論争に乗じた「“人権屋”的行為」でないことは判っていただけると思います。

 それでは上の点を踏まえたうえで、次は「日本人がこれを考慮することの妥当さ」について書きます。これについては、ハフポストの記事で発信者なりの回答が成されています。

http://www.huffingtonpost.jp/2018/01/02/history-of-blackface_a_23321243/
最悪のシナリオ
ところが最近まで、日本では「差別の文脈」が特に意識されてこなかった。その問題点を、マクニールさんはこう指摘する。
《さらに心配なのが、日本には(改善のための)時間があまり残されていない点です。日本を愛し、日本のために最善を尽くそうと思っているすべての人たちにとって、最悪のシナリオは2020年の東京オリンピックパラリンピックで、ブラックフェイスは差別じゃないという態度を貫いてしまうことです。
もし、オリンピック・パラリンピックの開会式で、誰かがこのようなブラックフェイスをしてしまったら...。全世界が、日本は人種差別主義、あるいは無知な国だと見なすでしょう。これは取り返しがつきません。

 現在盛んにオリンピックにかかるニュースが取り挙げられているように、日本は次期オリンピックの開催国であり、これを踏まえて国家規模での大々的な外国人誘致を図っています。オリンピックはそれ自体が平和の祭典である、ということはもちろんのこと、オリンピックの出場選手として様々な人種・民族の人が日本に来るでしょう。その選手を見るために、また同じく様々な人種・民族の観光客が来るでしょう。そうした中でもし、こうした事実を知らないままに、まったく差別意図なくこうした振る舞いをがなされてしまったとき、一体どうなるでしょうか? 今はまだ二年も前ですから、ごく僅かな在日黒人と日本人による論争のみ済んでいますが、オリンピックの開催年にもなればそれでは済みません。

 あなたは自身の記事で“「そんな無知な日本が世界からどう見られるか心配」は「非実在被害者」です。”と書かれていますが、これは適切ではありません。先に示したように対外事情を意識する必要のあるオリンピックという出来事が間近に迫っており、これから平和の祭典を求めてやってくるであろう人々がその「被害者」になりうる可能性は想像に難くなく、「ここは日本だから」という申し入れだけで、欧米圏において差別と紐付けられた行為を公然と行うことを正当化するのは困難です。

 マクニール氏のオリンピックについての言及はハフポストでの記事で初めて出たことではなく、今年のはじめになされた一番最初のツイートでも既に同様の主張があり、さらに言えば、2015年の「ももいろクローバーZ-」の事件で声を上げた頃からすでに同様の主張を発していました。

http://www.yokohamaseasider.com/ja/%E3%83%99%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%AB/
 マクニールによれば、「日本は外国からの観光客呼び込みに力を入れ、2020年の東京五輪主催の準備を進めている。そのため、そういった問題にはより敏感になる必要があるし、インターネットの時代に、完全なる無視を決め込むことはできない」と言う。

 彼の一連の主張を「人権屋的行為」だと見做す人も少なくないですし、差別意図など一切なく顔を黒く塗るという演出を行ってきた日本人にとっては、彼の態度がそのように映ってしまうのは、ある種致し方ないことであるとも思います。しかし彼は日本で13年生活してきた人間であり、またこれからも生活していくであろう人間で、さら言えば、日本についての著作も複数残している日本をよく見知った人間でもあります。そうした人間が2015年の時点で2020年を見据え、アフリカ系アメリカ人として、在日外国人として早くから自分の意見を固めていた、という点は、もう少し顧みられても良いのではないかと思います。

 最後にこれらを踏まえて改めて私の意見を述べておきますが、私はあの番組での黒塗りおよびこれまでに日本人によって行われた顔の黒塗りのほとんどは、差別的意図によってなされたものではないと考えています。もともとこれはとても複雑で、語るには難しい問題です。私自身彼の発した意見の全てに同意できるかと言えばそうではないですし、そもそも発信者の指摘に従って「ただ画一的に一つの演出手法を禁忌化する」にしても、「声をあげた黒人を黙らせる」にしても、それでだけでは根本的には解決にはなりません。問題の根は人種差別にあるのであって、顔を黒く塗る行為それ自体にあるわけではないからです。
 しかしその一方で、アフリカ系アメリカ人たちの文化や音楽を愛好する一人の人間として、私には発信者のベイ・マクニール氏が抱いた感情や危惧心も、とてもよく解ります。日本人が思っている以上にアメリカでの黒人差別、そして日系人を含む黄色人種差別の歴史は根深いのです。

 私はあなたが書かれた記事には同調しませんが、あなたがあなたの立場でものを言われたことはとても意義のあることだったと確信しています。こうした事実を踏まえて、これからあなたがどのような意見を形成されるかは分かりませんし、それは私が口を出すことではありませんが、ただ、彼のような意見を「被害妄想」の一言だけで終わらせないでいてくださることを期待します。


 非常に長い文章となっていますし、書くのにもそれなりに時間をかけましたが、あなたに対してこの指摘を踏まえて記事内容を修整するよう要求するつもりはありません。ただ、この文章をここまで読んでくださるだけで十分です。
 それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。


2018/01/11 16:37 追記: 遅れましたが、誤字脱字や要出典と思われる部分について追っての編集を行いました。teruyastar氏がこちらの記事へのリンクを元記事掲載してくださったとのことで、少なくない人数の方がこの記事を読んでくださったようで、ほんとうに嬉しく思います。改めて、ありがとうございました。

*1:これは既に歴史用語となっており、Wikipediaや世界史についての書籍における公民権運動の項においても“ジム・クロウ法”として記載されています。

*2:これはWikipediaの“ジム・クロウ法”においても言及されています  ジム・クロウ法 - Wikipedia

*3:Wikipediaの当該記事に出典不明との掲示があったので出典を追加します。高校世界史教科書の出版社・山川出版社の2014年刊行の『世界史用語集(ISBN-978-4-634-03303-0)』のp.335において、有色人種差別撤廃法の総称として、“”ジム・クロウ法(Jim Crow Laws)”の記載があります